走死走愛死天流

白くても、黒くても、わたしはわたし。

どす黒いもの

わたしのなかのどす黒いもの。

胸に渦巻くどす黒いもの。

息が上手にできないから、魚になった。

魚のわたしの鱗はどす黒い。

醜い鱗を剥がしても、流れるのはどす黒い血。

最初はそうじゃなかったの。

そうじゃなかったのよ。

きれいな、きれいな、色をしていたの。

限りなく透明に近い、ブルーの鱗。

太陽の祝福を受けて、きらきら、きらきら、光っていた。

どんどん黒く染まって、なにもかも、吸収してしまう。

黒く塗り潰されて、見えないの。

 

水中にいると、母の胎内を思い出す。

ときどき、湯船に張ったぬるま湯のなかで、わたしは目を瞑る。

そうすると、わたしの世界には安寧が訪れる。

赤ん坊はどうして産声をあげるのだろう。

ずっと、やさしいゆりかごのなかにいたかったから?

世の中の厳しさや理不尽を知っているから?

何故なのだろう。

わからないけれど、わたしは思う。

赤ん坊は子宮にいる頃、自我を持っていて、産道を進むにつれ、記憶を失っていき、外界に出るとすっかり忘れ去ってしまうのではないかと。

自分が何者なのか、わからない恐怖で泣くのではないかと。

わたしもわたしがわからない。

ただ、あるのはどす黒い感情だけ。